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IoT歯ブラシがもたらす“口内革命”、サンスター「G・U・M PLAY」が歯磨きを楽しくする理由

2017年6月29日

 あらゆるモノがインターネットを介してつながる「IoT(モノのインターネット)」――。IoTの世界はどんどん広がりを見せており、われわれ人間が身に着けたり日常的に触れたりするモノにまで到達し始めている。
 それらのうち、まず最初に身近な存在となりそうなのが、日々の歯磨きに代表される「オーラルケア」分野の製品だろう。実際に、オーラルケア市場に大きなインパクトを与えるIoT製品が既に出始めている。
 そうしたIoT対応オーラルケア製品の代表例が、サンスターが販売する“スマートハブラシ”「G・U・M PLAY(ガム プレイ)」だ。このガム プレイ、ついついなおざりにしがちな毎日の歯磨きを、IoTとアプリの力で「子供から大人まで楽しめる作業」に一変させる画期的な製品となっている。なぜこのような製品の開発に至ったのか。開発の意図や経緯、製品の特徴などを取材で探った。

サンスターが販売するIoT対応のスマートハブラシ「G・U・M PLAY(ガム プレイ)」。2016年4月発売
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 忙しい毎日の中で歯をしっかり磨くのは意外に面倒だ。勢いなおざりになっている人も多いのではないだろうか。実際、サンスターが2014年に実施した調査によれば、1回あたりの歯磨き時間が1分未満という人は13%、1~3分未満が35%と、全体の約半数が3分未満。歯科業界が推奨する3分以上という歯磨き時間を半数がクリアしていないことになる。

 しかも、この調査は「自己申告」なので、実際にはもっと短い可能性が高い。歯科医に話を聞いてみると、本人は「きちんと磨いている」と申告するものの、診ると十分でない患者が多いという。

 日本人は、歯周病などに関する認識は非常に高い。にもかかわらず、防ぐための行動が伴わない、予防への意識が低いという背景がそこにはある。

 一方、欧米ではこうしたオーラルケアに関する意識が高い。日本のような国民皆保険制度でないことが一因だ。治療にかかれば高額な費用が請求されるため、熱心にセルフケアに努める。日本人の場合、昔から何か症状が出てから歯科医院に行くことがほとんど。健康な歯を保つためには、やはり歯磨きが基本なのだが、ここへの関心も薄い。

 「当社は長年、歯ブラシや歯磨き粉などの改良を重ねてきました。ただ、より良い製品を届けることはできても、ユーザー一人ひとりの“意識の改善”まではできていなかった。今後はそこまで踏み込んでいきたいと考え、『デジタルを活用して何か新しいアプローチはできないか』と、開発プロジェクトを立ち上げました」。ガム プレイ開発を手掛けたサンスターの松富信治氏(オーラルケアカンパニー日本ブロックマーケティング部)はこう話す。

ガム プレイの開発を手掛けたサンスターの松富信治氏(オーラルケアカンパニー日本ブロックマーケティング部)
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 ガム プレイの開発は2014年4月にスタート。メンバーはどんどんふくらんでいき、最終的には外部のデバイスやアプリ開発会社などを含めて数十社規模、総勢200人前後が関わる大規模プロジェクトになったという。

外付けアタッチメントで歯磨き動作を読み取る方式を採用

 ガム プレイの基本コンセプトは、ユーザーが「歯磨きが楽しくなる」「正しいブラッシング方法が身に付く」ようにすること。要は、個々人の行動変容を促すことだから、簡単なようで、難しい。

 プロジェクトチーム内で議論を重ね、試行錯誤の末、行き着いた答えが「ブラッシング方法が正しいかどうかを、自分で手軽にチェックできる仕組みを歯ブラシに外付けする形で組み込もう」というアイデアだった。

 サンスターでは、歯ブラシの動きを感知する加速度センサーとBluetooth無線通信技術を内蔵したアタッチメントを開発。これを歯ブラシの持ち手の部分に取り付け、スマートフォンに専用アプリ(無料)をインストールすれば、いつもの歯ブラシがスマート歯ブラシに変身する。

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 「ガム プレイ」はアタッチメントと、それを保護するカバー、専用歯ブラシのセットで5400円(税込)。アタッチメントは簡単に取り外せるので、1つあれば家族全員で共用することも可能だ。

 デジタル化するなら、電動歯ブラシのほうが話は早い。にもかかわらず、なぜ、通常の歯ブラシにアタッチメントを装着する仕様にしたのか。「国内市場は、85%が手磨き派です。それに電動歯ブラシにすると価格単価を高くせざるを得ない。より多くの人に正しい歯磨きをきちんと身に付けてほしいので、後付けするタイプにしました」(松富氏)。

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 アタッチメントを保護するカバーには、シリコンゴムを使っている。採用した理由の1つは「伸縮性」だ。ガム プレイには専用の歯ブラシを推奨しているが、普段愛用している歯ブラシを使いたいというユーザーもいるはず。そこで他メーカーの歯ブラシでも使えるように、伸びる素材のシリコンゴムを用いた。軽く振って、外れない歯ブラシならば概ね問題ないという。

歯科衛生士35人のブラッシングデータを基に歯磨き動作を理想化

 では、実際にガム プレイでどんなことができるのか。アプリに搭載されている基本機能は、「マウスチェック」と「マウスログ」の2つだ。

 マウスチェックでは、歯磨きを採点してくれる。歯磨きを始めると、歯ブラシの動きが波形(ブラッシングピッチ)で表示され、100点満点で何点かがリアルタイムで分かる。

歯磨きを採点してくれる「マウスチェック」
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 単純なようだが、実はこの点数化にかなり苦労したという。開発に着手する以前にはそもそもこうしたデータなど存在しなかったため、社内の歯科衛生士35人のブラッシングをセンシング。それらを平均化していくという地道な作業を何度も繰り返し、1つの理想形をつくった。それに近い動かし方ができていれば高得点が出る格好だ。

 歯を1本ずつ、小刻みに、というのが基本の磨き方。雑に動かすと点数(スコア)が下がり、細かく動かすと点数が上がる。また、「BAD」「GOOD 」「BEST」の3段階のレベルでも表示される。

 マウスチェックは、いわば正しい歯磨きの感覚を養うための練習ツールだ。波形を見ながら、歯磨きのピッチや強さの訓練ができる。高い点数を取ろうとすると、「手が疲れる」という声をよく聞くという。実際に試してみると、かなり意識して動かさないときれいな波形を描けなかった。

 ただ、これは動かし方のみで採点している点に留意が必要だ。正しく歯を磨くには、歯にブラシを当てる角度や強さなども重要となる。取材時点では、これらについてはまだ組み込めておらず、今後の課題とされていた。

実際に1カ月試してみたら、歯磨きスキルが劇的に向上した

 もう1つの「マウスログ」は、毎日の歯磨きデータを記録するツールだ。日、週、月、年単位で1年分のログが蓄積される。記録内容はかなり詳細で、1日に何回、合計何分、1回当たり平均何分磨いたかが分かるうえ、歯を磨いた時間を棒グラフ、磨き具合を点数や色でビジュアルに示してくれる。レベルが上がるごとに赤から青、黄緑と色が変わっていくので、上達度合いは一目瞭然で、自然とやる気がわく仕組みになっている。

毎日の歯磨きデータを記録する「マウスログ」
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 さらに、1回の歯磨きごとに、すべての歯がまんべんなくきちんと磨けているかも記録される。全歯を右上の前側、後ろ側、噛み合わせという具合に16分割。うまく磨けていれば黄緑、磨けていないところは赤というように色分けされる。磨き残しが多い場所が把握でき、次回はそこを注意して磨けばいい。

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 実際に、筆者も1カ月間、継続して使ってみた。下に示した2点の写真から分かるように、トータルスコアは65から90に上がり、磨けていない個所が減った。波形も1カ月前に比べ、変動幅が少なくなっているのが分かる。

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筆者が1カ月間使ってみた結果。左が開始時で右が1カ月後。歯磨きスキルが劇的に向上しているのが分かる

 歯を磨く時間も自然に延びた。歯磨きが上達しているのがスコアなどの数値で「見える化」されたことで、俄然モチベーションが上がったおかげだと思う。

 ただ、アプリ上の上達表示だけでは「本当に上達したのか? 歯科医の目で見ても『歯磨きが上達した』と判定できるレベルなのか」という疑問が浮かび上がる。そこで、筆者のかかりつけ歯科医院である「パールデンタルクリニック(東京・目黒)」に足を運び、磨き残しをチェックする「染め出し」を行ってみた。すると、以前は50%程度しか磨けていなかったが、今回は90%磨けていた。わずか1カ月で劇的に上達したことが分かる。

 パールデンタルクリニックの真部寛登院長は、「歯の磨き方の知識がない人が使ってもあまり意味がないと思うが、知識のある人が使えばより効果的だろう。ブラッシング指導をした人のモチベーション維持に利用するといいかもしれない」と話す。実際、院内用のタブレット端末にアプリをダウンロードし、患者に見せたところ、反応が良かったという。

歯磨きデータをクラウド上に集めることで、「宝の山」が生まれる

 ガム プレイでは、登録するアタッチメント一つにつき、最大100人分のデータを登録できるという。ユーザー属性や利用情報のログといった膨大なデータはすべて、サンスターのクラウドサーバーに蓄積される。このようにして多くのユーザーから蓄積されるビッグデータは「宝の山」だ。サンスターではこのビッグデータを活用し、ガム プレイ以外の商品開発や販売促進にも活用していく考えだという。

 例えば、今までは「東京と大阪で、歯磨き時間に違いがあるか」という疑問に答える正確なデータが存在しなかった。仮にあってもそれは自己申告によるアンケート結果だけ。しかし、ガム プレイを使えば「真のデータ」が大量に得られる。「ある歯科の先生から『これはひょっとしたら歯科業界におけるアカデミックな情報として使えるんじゃないか』と言われました」(松富氏)。

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 ここに目をつけているのはサンスターだけではない。実際、他メーカーからも、アプリと連動する電動歯ブラシが販売されている。「センサーの価格が下がってきているので、どこのメーカーでも同じような製品は作れると思います。むしろここからはコンテンツ勝負です」と松富氏は力を込める。

 「競合する製品のアプリには、単に歯磨きの時間など管理するだけだったり、ゲーム性があってもすぐに飽きてしまうような比較的単純な内容だったりするものが目立ちます。当社のガム プレイは歯磨きという行為を楽しくし、最終的には歯磨きに関連するユーザーの行動そのものを変えていくことを目指して、専用アプリの内容にはトコトンこだわりました」

 前述した2つの基本機能「マウスチェック」「マウスログ」の他に、ガム プレイでは3つの専用アプリを用意している。ただ歯磨きを楽しく面白くするだけではなく、使うことで正しい歯の磨き方が身に付く内容になっている。

 松富氏によれば、専用アプリ開発に当たってもう1つこだわったのが「継続性」だという。実際に使ってみると、確かに基本機能の「マウスチェック」だけだと次第に飽きてしまい、なかなか毎日続けられない。継続していける仕組み、仕掛けを用意することがやはり重要なのだ。

 具体的に3つの専用アプリがどんなもので、どのような工夫が盛り込まれているのかについては、次回、<後編>で詳しく探っていく。

(取材・文/荻島央江=ライター)