多くのD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)ブランドが商品価値を高めるために、「パーソナライゼーション」を取り入れている。顧客の趣味嗜好やライフスタイルに合った商品を提案するマーケティング手法だ。このパーソナライゼーションを支援するソリューションが相次いで登場している。D2C市場拡大の起爆剤となるか。

パーソナライズシャンプー「MEDULLA」を展開するSparty(東京・渋谷)は2020年7月から、パーソナライズブランド支援サービスを始めた
パーソナライズシャンプー「MEDULLA」を展開するSparty(東京・渋谷)は2020年7月から、パーソナライズブランド支援サービスを始めた

 ライフスタイルや価値観の多様化によって、消費者はより自分に合った商品を求めるようになっている。その究極形がオーダーメードだろう。従来はオーダーメード商品といえば、手間がかかり高額という印象が強かったが、デジタル技術の進化や少量生産に対応したOEM(相手先ブランドによる生産)メーカーとの連携などによって、スタートアップ企業でも手ごろな価格でオーダーメードに近い商品提供が可能になった。

 D2Cブランドは最たる例だ。D2Cブランドはデジタルを活用して商品と体験が一体となった販売手法に取り組むケースが多い。デジタルを活用して顧客の嗜好を把握し、個別にフィットした商品を届ける手法はパーソナライゼーションと呼ばれ、体験価値を高める手法として取り入れられている。さらに顧客と直接つながることで、届けた商品の向き不向きなどの評価をデータとして蓄積することで、より顧客に合った商品を提案して、継続的な購入につなげている。これがニッチなニーズを捉え、新しいブランドが徐々に消費者に受け入れられ始めている。

大手企業からブランド展開の問い合わせが増加

 こうした動きは、大企業にとっても無視できない存在になっている。パーソナライズシャンプー「MEDULLA」を展開するSparty(東京・渋谷)の深山陽介社長は、「自社でパーソナライズブランドを展開するにつれ、大手食品メーカーや美容品メーカーから、パーソナライズしたサービスを提供するにはどうすればいいかという相談を受ける機会が増えてきた」と言う。パーソナライズブランドは、消費者の嗜好と商品をマッチする仕掛けが必要になる。マスプロダクトを中心に展開してきた大企業はそうしたノウハウを持たないため、支援サービスの需要が高まっている。

 そこで、Spartyは増加する問い合わせに応えるため、ECサイト向けのカートを開発するテモナと共同で2020年7月14日から、パーソナライズブランドの立ち上げから販売サイトの構築支援までトータルで請け負う「パーソナライズドD2Cソリューション」の提供を始めた。自社ブランドで培ったノウハウを活用したコンサルティングと、それを実現するカートシステムを組み合わせたソリューションだ。

 パーソナライゼーションは主に申し込みに先駆けた診断と、その結果に基づく顧客にフィットした商品提案の組み合わせで提供されることが多い。Spartyが18年から展開するMEDULLAは、現在の髪の長さや色、なりたい髪質などの9つの質問に回答すると、3万通りの配合レシピの中から最も適したシャンプーが毎月届くサブスクリプション型のパーソナライズシャンプーだ。既に10万人を超える顧客が登録している。さらに、同社はこの仕組みをスキンケア商品に広げ、パーソナライズスキンケアブランド「HOTARU PERSONALIZED」を20年5月から始めた。こちらは10の質問に回答すると、適した配合の商品が提案される。

Spartyは20年5月にパーソナライズスキンケアブランド「HOTARU PERSONALIZED」を開始。10の質問に回答すると、適した配合の商品が提案される
Spartyは20年5月にパーソナライズスキンケアブランド「HOTARU PERSONALIZED」を開始。10の質問に回答すると、適した配合の商品が提案される

 パーソナライズドD2Cソリューションでは、HOTARUの展開に当たって、テモナと共同開発したカートシステムを提供する。SpartyはHOTARUのECサイトにテモナのカートシステムを採用しようとしたが、そのまま活用するには機能が不十分だったという。「従来のテモナのシステムは、同じ商品を定期的に送るための仕組みだった」(深山氏)ことがその理由。Spartyのブランドはいずれも届けた顧客から使い心地などの評価をデータとして登録してもらい、その結果に合わせて、より適した配合があれば異なる商品を送る。そのため、顧客の評価を基に、送る商品を変更できる仕組みが必要だった。

 そこで、Spartyはテモナからカートのシステムのソースコードを提供してもらい、自社のエンジニアとともにパーソナライズブランドに合ったカートシステムに作り替えた。具体的には商品の処方に関するアンケートの回答結果や、その結果に基づいて配合した商品の履歴、顧客から取得した商品への評価、その評価に基づいて新たにどの配合の商品を提案したかといったデータを一元管理できる管理画面を開発した。深山氏が「このカートシステムを外販すれば、パーソナライズブランドを展開したい企業の要望に応えられる」と考えたことが、ソリューション提供のきっかけとなった。

 ただ、「システムを提供するだけではパーソナライズブランドの開発は難しい」と深山氏は言う。例えば、データの持ち方だ。「最大の違いはCRM(顧客関係管理)の部分。パーソナライゼーションサービスをする上では、顧客IDに対して商品の評価などのデータをひも付けていき、管理できるようにしなければならない」と深山氏は指摘する。顧客の嗜好に適した商品を提案するために必要な質問項目の設計や、診断結果のデータの保持、商品を届けた後の顧客の評価など、顧客に伴走することを主眼に置いたデータ蓄積が必要になる。

 さらに、そうしたデータをブランドマネジャーだけでなく、コールセンターなどの部門でも見られるようにしなければならない。顧客から問い合わせがあった場合に、提供した商品などが把握できないと、適切な対応をとれないからだ。データに基づき商品やコミュニケーションをトータルでパーソナライズすることが体験価値を高める上で重要になる。

MEDULLAの開発に必要な3つの価値

 データ蓄積の設計図は、ブランドが提供したい価値と密接に結び付く。Spartyはブランド設計を3つの価値に分けて開発している。まず、ブランドのポジションを決める「ライフスタイルバリュー」だ。そのブランドで、どんな価値を届けたいのかを決める。MEDULLAは深山氏の妻がシャンプー選びに悩み、さまざまな商品をとっかえひっかえ利用している様子を見て、この悩みを解決したいと考えたことがブランド開発の発端になっている。シャンプー選びの苦痛から解放して、生活を豊かにすることがブランドの根底にある。

 この価値を表現するための体験設計が「エモーショナルバリュー」だ。MEDULLAのサービスコンセプトは「あなただけのヘアサロン」。サービスを通じて顧客の声を吸い上げ、自宅でのパーソナルなヘアサロン体験を提供することを目指している。これを実現する機能を「ファンクショナルバリュー」と呼ぶ。パーソナルなヘアサロン体験を提供するには、髪質などのデータは欠かせない。こうして商品の体験価値を高めるために必要なデータの設計が決まっていく。

MEDULLAは「ライフスタイルバリュー」「エモーショナルバリュー」「ファンクショナルバリュー」の3つの価値に分けて事業を開発した
MEDULLAは「ライフスタイルバリュー」「エモーショナルバリュー」「ファンクショナルバリュー」の3つの価値に分けて事業を開発した

 パーソナライズドD2Cソリューションでは、Spartyが自社ブランドの展開で培ったパーソナライゼーションのノウハウを活用したコンサルティングと、テモナと共同開発したカートシステムを組み合わせることでブランド開発を支援する。価格はブランド開発のサポートが300万円から、パーソナライゼーションの仕組み提供は500万円からを想定している。「現状ではリソースが限られるため、年間でも2~3社程度の支援で考えている」と深山氏は言う。

より安価な支援サービスも登場

 Spartyのソリューションはコンサルティングから関わるため、比較的大企業向けだ。一方、スタートアップ企業なども対象に、月額4万9800円から利用できるパーソナライゼーションシステム「1d-color」を提供するのが、EC支援のSUPER STUDIO(東京・目黒)だ。20年7月末より提供を始めた。

 SUPER STUDIOの花岡宏明COO(最高執行責任者)は「パーソナライズD2Cブランドのアイデアはあるが、それを実現する手段がないという悩みを耳にする機会が増えている」と開発背景を語る。D2Cブランドは顧客獲得のためのマーケティングに投資したい意向が強い。ところが、パーソナライゼーションの仕組みを一から開発すると、開発コストがかかりマーケティングに費用を回せなくなる。そのため、アイデア止まりになるケースが増えているというわけだ。1d-colorはパーソナライゼーションの仕組みを安価に提供することで、企業がブランド体験の設計やマーケティングに集中することを目指して開発された。

 1d-colorは管理画面でパーソナライゼーションに必要な診断コンテンツの項目設計と、その回答結果と商品をひも付けて管理する仕組みだ。まず、診断コンテンツのテンプレートを選び、質問項目を設計していくことになる。コーヒーを例に挙げれば、酸味が強い豆、苦みが強い豆、コクがある豆など、それぞれ味に特徴のある商品があるだろう。適した豆を提案するには、顧客の味覚を診断する項目を設計する必要がある。好きな焙煎(ばいせん)度合い、カプチーノやドリップコーヒーといった好みの飲み方を尋ねるといった感じだ。質問項目は10問前後にとどめるべきだという。多すぎると、顧客が途中で飽きてしまい、離脱率が高まる傾向にあるからだ。

1d-colorで設計した、診断コンテンツの例。こうした診断コンテンツのテンプレートを用意して、簡単に設定できるようにした
1d-colorで設計した、診断コンテンツの例。こうした診断コンテンツのテンプレートを用意して、簡単に設定できるようにした

 この回答結果に合わせてスコアリングを設定していく。例えば、カプチーノを好む場合には濃い豆が合うため、苦みに1点を加える。エスプレッソを好む場合にはコクに1点を加えるといった具合だ。「評価項目としては3~5が一般的だ」と花岡氏は言う。それ以上になると、ロジックが複雑になる。こうして算出されたスコアに合わせて、苦みが3以上、酸味は1以下、コクは2以上なら商品A、苦みが0以下、酸味は3以上、コクは1以上なら商品Bというふうに提案する商品ページのURLをひも付けていく。

1d-colorで設定した診断コンテンツの回答結果から、商品を提案することでパーソナライゼーションされた体験を提供できる
1d-colorで設定した診断コンテンツの回答結果から、商品を提案することでパーソナライゼーションされた体験を提供できる

 パーソナライゼーションは何も数万通りの中から、適切な商品を届けるだけが手段ではない。十数個の商品数しかなくても、その中から適した商品を届けるだけでも体験価値の向上につながる。

 従来のECサイトでは顧客が自らカテゴリーなどから検索して、自分好みの商品を探さなければならなかった。専門的な商品であるほど、自分に合った商品は探しにくい。1d-colorを使ったECサイトでは、まず診断から始めてもらう。例えばコーヒーを飲む時間、好みの味などを聞き、その結果から味覚に合った商品を提案することができる。「パーソナライゼーションは見方を変えれば、コミュニケーションの手段だ」と花岡氏は言う。診断コンテンツを活用した商品選びの手伝いと捉えれば、既存のECサイト事業者でも疑似的なパーソナライゼーションサービスとして活用できる。

 もっとも、コーヒーの例でいえば、届いた商品の味が診断結果の味覚と異なれば、体験価値は大きく損なう。「パーソナライズブランドを展開する企業の側で、きちんと顧客と商品を結び付けるノウハウを持っている必要がある」と花岡氏は説明する。

 1d-colorにも商品を届けた後の評価も管理できる仕組みがあるため、それを基にした継続的な提案も可能だ。例えば、商品のパッケージにQRコードを印刷しておき、スマートフォンのカメラで読み取ることを促し、評価の回答ページに誘導する。そうして取得したデータに合わせて、より適した別の商品を提案することができる。

 ただし、いずれのソリューションもあくまでパーソナライゼーションの仕組みを実現するためのものだ。商品そのものの開発は自社で手掛ける必要がある。「大手企業の場合は既に多数の商品を持っていることが多い」(深山氏)ため、個別にフィットした商品を提案する仕組みが整えば、すぐにでも事業を展開できることが多いという。一方、スタートアップ企業や大企業でも新規事業の場合はシステムを活用した体験設計と商品開発を併せて考えていく必要があるだろう。