欧米のスーパーでは生鮮品パッケージの主流となっている「真空スキンパック包装」(以下スキンパック)。肉や魚を特殊フィルムで真空密封するパッケージ手法だ。食材の酸化やドリップ(液だれ)が少ないため鮮度が長持ちし、フードロスも減らせるため環境にもやさしく、「脱炭素」に向かう世界各地で利用が増えている。だが、不思議なことに日本ではほとんど普及していない。その背景を探ると、私たち消費者の「知識不足」にも原因がありそうだ。

真空スキンパック包装は消費期限が長くフードロスを減らせるとして欧米で一般的(写真は店頭陳列イメージ、提供:東京食品機械)
真空スキンパック包装は消費期限が長くフードロスを減らせるとして欧米で一般的(写真は店頭陳列イメージ、提供:東京食品機械)
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欧米から「20年遅れ」でイオン系列がようやく導入

 「20年以上前からスキンパックを日本でも普及させようと営業と投資を続けてきたが、なかなか浸透しなかった。最近になって、ようやく広がる兆しが出てきたように思う」

 東京食品機械(東京・中央)の秦哲志会長は、最近になって徐々にスキンパックの普及に手応えを感じている。2022年4月に操業を始めた「つくば本社工場」(茨城県つくば市)では、スキンパック用機械の国内向け出荷も開始した。

 スキンパックは肉や魚などの生鮮品を特殊なフィルムで真空包装する技術だ。普通に真空パックをすると空気圧で内容物がつぶれてしまうが、特殊フィルムを使ってすき間なく密着させることで、肉や魚の形を元のままに維持できる。生鮮品が空気に触れることを防いで、内部に含まれる水分なども閉じ込められるため、消費期限と保存期間を長くできるのが最大のメリットだ。

スキンパックは特殊フィルムを使って肉や魚の形状を保ったまま、真空で包装できる
スキンパックは特殊フィルムを使って肉や魚の形状を保ったまま、真空で包装できる
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 東京食品機械は1973年に創業した包装機械の国内商社で、2004年からは欧州包装機械最大手メーカーの独ムルチバック(本社・独ヴォルファートシュヴェンデン)から資本を受け入れ、グループ企業となった。そのムルチバックが、真空パック技術のトップ級企業として1990年代からスキンパック技術を世界各地で広めてきた。

 しかし、日本で大手流通業が使い始めたのは、つい最近のことだという。最初に導入を決めたのはイオングループのダイエーだ。2019年11月に試験的に導入し、20年5月から関東地方と近畿地方にある全店舗で取り扱いを始めた。

 これがじわじわと好評になってきたことを受けて、イオングループは22年5月下旬から、イオンリテールの一部店舗で「タスマニアビーフ」などの輸入牛肉などでスキンパックを活用し始めた。23年までには全国の店舗に広げる方針だという。

脱炭素やSDGsで意識に変化

 「最近になって脱炭素社会やフードロス削減の機運が高まり、SDGs(持続可能な開発目標)などの考えが浸透したことで、スキンパックに追い風がようやく吹いてきた感じです」と、秦会長は説明する。今年2月に東京ビッグサイト(東京・江東)で開かれた日本包装産業展「JAPAN PACK 2022」(主催・日本包装機械工業会)でも、スキンパック技術や機械について多くのメーカーや代理店が紹介していた。

2022年2月、東京ビッグサイトの「JAPAN PACK」でスキンパック技術を説明する秦哲志・東京食品機械会長
2022年2月、東京ビッグサイトの「JAPAN PACK」でスキンパック技術を説明する秦哲志・東京食品機械会長
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 スキンパックは欧州や米国にある生鮮食品系の小売店では広く普及してきたパッケージでもあった。

 「空気に触れないので生鮮品の酸化やバクテリアなどの繁殖を抑えられる。フィルムが肉にフィットするのでドリップも抑えられ、長持ちするという大きなメリットがあるからです」

 こう説明するのは、スキンパック用の特殊フィルムを国内生産している住友ベークライトの田中厚・執行役員フィルム・シート営業本部長だ。

 現在、多くの食品を扱うスーパーでは、プラスチックトレーに肉や魚を載せた上からラップで包んで店頭に並べる包装が、まだまだ主流だ。だが、この方法は生鮮品が空気に触れる面積と時間が長いため酸化や腐食が進みやすく、店頭ではせいぜい1~2日しか持たない。

販売価格に含まれる深夜帯の人件費や廃棄コスト

 そこでスーパーは各店舗で、深夜帯に働くスタッフを確保して、朝から新鮮な肉や魚を店頭に並べるため深夜から明け方にかけてスライスや切り身に加工することがほとんどだ。店頭で生鮮品のラップに貼られたシールに「午前2時に加工」などと印字されているのは、そのためだ。

多くのスーパーでは今もプラスチックトレーをラップで包むのが主流=東京都調布市内のスーパー
多くのスーパーでは今もプラスチックトレーをラップで包むのが主流。写真は東京都調布市内のスーパー
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 「人手不足の日本では、当然ながら深夜帯に働く人の確保が非常に難しくなっている」と、都内で多店舗展開する準大手スーパーの採用担当幹部は話す。特に、生鮮品は単価も安く抑えねばならないので人件費も上げにくく、これも夜間の働き手を集めにくい一因となっている。

 さらに、生鮮品はどうしても「足が早い」ため、売れ残ってしまった場合には廃棄する必要がある。その場合には仕入れ原価は損失として計上することになり、廃棄物として処理するため費用もかさむ。流通業界に詳しい証券アナリストは「販売価格の数パーセントは廃棄処理コストとして必要だと聞いている」と解説する。

 一方、包装した生鮮品の酸化や劣化が進みにくいスキンパックなら、最長で2週間ほど長持ちする。購入した消費者も自宅の冷蔵庫や冷凍庫で長期保存ができるため、せっかく買った肉や魚をムダにする機会も少なくなる。

 東京食品機械の秦会長は「全国各地の食肉や鮮魚の産地がスキンパックを導入すれば、流通の途中でも劣化が防げるうえ、冷凍・冷蔵物流に頼るケースも少なくできる。サプライチェーン全体で不要なコストを削減可能だ。産地で新鮮なままパッキングできれば、海外輸出も容易になり、海外市場に打って出られる可能性も広がる」と期待を込める。

「赤い肉のほうが新鮮」消費者のイメージが阻んできた普及

 難点があるとすれば初期導入の費用がかかることだが、これほどまでに利点が多いスキンパックは、なぜこれまで国内で普及しなかったのか。

 「最大の理由は『見た目』にあると思う」と、秦会長は表情を曇らせる。例えば、スキンパックで包装した肉は、ややくすんだ茶色に近い見た目になる。「消費者は、肉なら店頭では赤く見えることが新鮮だと思っているが、実際は酸化が進むから赤くなるわけで、劣化が進んでいる状態といえる。店頭では新鮮に見せるため赤みを強調する照明が使われることもあり、それがさらに『赤いほうが新鮮』だと思い込ませている実情がある」(秦会長)

 スキンパックでは酸化が進まないため、肉の場合は色がどうしても暗くなる。ゆえに流通各社は「見た目が悪いと売れない」と、スキンパック導入に二の足を踏んできたのが実態だ。

紙の上に特殊フィルムで生鮮品を包んだスキンパックの例
紙の上に特殊フィルムで生鮮品を包んだスキンパックの例
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 スキンパックはフィルムやトレーなどだけではなく、トレーの代わりに再生可能な「紙」も使うことが可能だ。台紙として使えるなら、そこに小さな穴を開けフックで壁などにかけて店頭に置くこともできる。

 長持ちして味も鮮度もよし、残りものの廃棄費用や人件費を減らせてコスト面よし、店頭での置き方やビジネスの可能性を広げる将来性よし、の「三方よし」を満たすスキンパックを、最終的には「消費者の知識不足や無理解が主因」だとして普及させないとしたら、流通業界は今や社会課題の解決意欲に乏しいといわれかねない時代だろう。

 消費税率が上昇し、人件費も高止まり、フードロスへの対応も急務となっている昨今、消費者のイメージを気にして導入しないという判断は、徐々に難しいものになりつつある。

(写真/三河主門)