一瞬、冗談のように聞こえるキーワード「貧テック」。「貧困+フィンテック」から生まれた造語だ。金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた「フィンテック」が市民権を得るとともにトレンドワードとして注目されるようになってきた。日経ビジネスでも、「『貧テック』って何だ? フィンテックの隠れた主役」という特集をしている。フィンテックの現状と課題を解説する。

(写真:PIXTA)
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身近すぎて気づかないフィンテック

 「フィンテック」は、社会生活になくてはならないものとなっている。フィンテックについては当シリーズ「今さら人に聞けない常識キーワード」の「1980年代から始まった『フィンテック』がなぜ目新しいといわれるのか」で取り上げているので、詳しくはそちらを読んでいただきたい。

 フィンテックは私たちの生活にいつの間にか入り込んでいる。例えば、通勤などの交通費はスマートフォンで決済し、コンビニで買ったコーヒーはQRコードで支払う。昼休みには、ロボアドバイザーによる投資で増えた資産をチェック。夕方には、スマホを使って保険の契約内容を変更。夜には増えた資産を使って、クラウドファンディングに再投資する。お金とテクノロジーが結びついた利便性の高いサービスが提供されればされるほど、フィンテックサービスを使わずにはいられなくなる。

 貧テックはこれまで金融サービスの利用機会がなかった層にも広がりをみせている。企業しか利用できなかったり、手続きが煩雑で利用しにくかったりした金融サービスを個人でも手軽に利用できるのがポイントだ。例えば以下のようなサービスが登場している。

  • ソーシャルレンディング(「投資したい人」と「借りたい人」をネットでマッチングする金融サービス)
  • 給与ファクタリングサービス(給与所得者の「賃金債権」を業者が買い取り、給与日前に現金を受け取れる金融サービス)
  • ECプラットフォームでの後払いサービス(買い物の支払いを翌月以降に一括後払いにできる決済サービス)
  • プリペイド式クレジットカード(チャージした金額の範囲内でカード加盟店で利用できるクレジットカード)

 こうしたサービスは、金融サービスの利用に積極的ではなかった若者の間でも広まりつつある。その一方で、従来なら倫理的な問題から登場しなかったサービスや、法律上はホワイトだが限りなくグレーなサービスが登場しているのも事実だ。例えば、上記の給与ファクタリングサービスの中にはヤミ金まがいの悪徳業者も存在する。リテラシーが低い層をターゲットにしたモラルの低いサービスが、フィンテックを装って登場しているのだ。

 本来、サービスはユーザーの利益と企業の利益のバランスが取れていなければ長続きしない。だが、貧テックサービスには企業の利益を優先したサービスが散見されるし、本来なら金融サービスの対象とすべきではない層をターゲットにしているものもある。

給与ファクタリングや後払いの問題点

 そんな貧テックの問題を見ていこう。

【給与ファクタリング】
 給与ファクタリング(債権買い取り)は簡単に説明すれば「給与を先払いしてあげます。その代わりに手数料をいただきます」というサービスだ。中には、AI(人工知能)を利用して、素早くファクタリングの可否を判定するサービスもある。しっかりと返済できるユーザーであるとAIが判断すれば、一定の手数料を差し引いて迅速に給与を先払いする。消費者金融に「借金」をせずに手軽にお金を工面できる。だが、このサービスには落とし穴がある。

 20万円の手取り給与をファクタリングしたA君。1月に初めて利用し、給料日前にお金を手に入れ、その月は助かったものの、1カ月もすればお金がなくなり、その後も前借りを繰り返していた。

 しかし、前借りには手数料10%(2万円)がかかり、実際に先払いされるのは18万円。一方、返済金は20万円なので、給与は実質2万円減となり、生活は苦しくなる。そして10月、差し引かれた手数料総額は20万円に。ファクタリングでは生活が立ちゆかなくなり、結局クレジットカードのキャッシングでしのぐことに。こんなハズじゃなかったのに……。

 これは、A君の使い方が悪いという話で一蹴される話かもしれない。上記のようなファクタリングサービスは実質的に貸金業にもかかわらず、貸金業登録をしていない業者もいる。このため金融庁による規制を逃れて、中には法定上限の100倍の手数料を請求した事例もある。

 そうした事業者は若者層をターゲットにし、広告審査が甘いSNS(交流サイト)を狙って出稿している。金融リテラシーが低く、資産や収入が乏しい若者層がこうしたサービスの餌食になっている。

【後払い・ツケ払い】
 ECサイトによっては、購入した商品の支払いを後払いにできるサービスを提供しているところがある。これは手数料狙いというより、ユーザーの利便性を考えてのことだ。後払いなので、手持ちのお金がなくても買い物ができる。一種のツケ払いだ。クレジットカードを持てない学生などには便利なため、広く受け入れられた。

 ただ利便性の高さから、実質的な短期借り入れに近いということを忘れてしまいがちだ。物を購入すれば対価はいつかは支払わなくてはならない。

 あるファッション系ECサイトでは、支払いを2カ月先の後払いにできる。2カ月あれば洋服のシーズンは変わる。7月に夏物を購入し、9月に秋物を購入するとしよう。ちゃんと後払いであると認識していれば、後払いの支払いが残っているので、9月に新たに服を購入するかどうかはよく考える必要がある。

 しかし、一部のユーザーは「ちょっとした我慢ができない人や短期的に物事を考える人」なのだ。その結果、後払いのことは考えずに購入してしまう。貯蓄や計画的なお金の使い方をできる人は、そもそもこういったサービスを利用しないという話もある。給与所得者であれば、お財布に入ってくる金額はほぼ定額だ。目先の支払いがないことをよいことに、後先を考えないで購入を続ける朝三暮四的な生き方は危ういものがある。

 後払い方式はメルカリが有名だが、21年7月には、ヤフーも「Yahoo!ショッピング」と「PayPayモール」で商品の注文から2カ月後まで代金の支払いを延ばせる「ゆっくり払い」をスタートさせている。さらに、ファミリーマートは電子マネー「FamiPay」の新サービスとして、「FamiPay翌月払い」を21年9月から始めた。

 一方、メルカリの子会社、メルペイは21年8月3日に新たな金融サービスとして個人向け少額融資事業「メルペイスマートマネー」を開始している。メルカリにおける過去の利用実績などに応じて金利や利用限度額が決まる。消費者金融に行くよりも障壁が低い半面、貸し倒れリスクが未知数な面もあり、サステナブル(持続可能)なサービスとなるか注目される。

貧テックサービスのこれから

 貧テックサービスはここまで紹介したもの以外にも、新たなものが続々と登場している。金銭面での不便や不満を解消でき、ユーザーにとって利便性は高まるだろう。しかし、フィンテックサービスはまだ過渡期にある。グレーなサービスや利益至上主義のサービスによるトラブルが増えることも予想される。

 弱者をターゲットにしたサービスやサステナビリティーの低いビジネスが増え続ければ、社会問題となり規制が入るのは火を見るより明らかだ。

(写真:PIXTA)
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 最後は使う側の人の責任だという考え方ももちろんある。だが、そういったサービスを提供する事業者の責任はますます大きくなっていく。

 パナソニックの創業者、松下幸之助の有名な言葉に「商売とは、感動を与えることである」というものがある。貧テックサービスは様々なものが「乱立」しているが、いま一度、事業者視点ではなく、ユーザー視点に立ち返らない限り、利用者に感動や感謝は生まれないだろう。ユーザー視点でテクノロジーを駆使した、より画期的なサービスが生まれてほしいと願うばかりだ。

(執筆者=東雲八雲)