日本マクドナルドが約20年ぶりとなる人事システムの刷新に乗り出している。日経クロステックの取材で2021年11月までに分かった。長年使い続け複雑化したレガシーシステムからの脱却を進め、従業員の情報を一元管理できる環境を整え、同社が力を注ぐ人材育成に生かす方針だ。

日本マクドナルドは約20年ぶりとなる人事システムの刷新を進め、人材育成に力を注ぐ
日本マクドナルドは約20年ぶりとなる人事システムの刷新を進め、人材育成に力を注ぐ
(出所:日本マクドナルド)
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マクドナルドはハンバーガーを売っている「ピープルビジネス」

 「マクドナルドはハンバーガービジネスではない、ハンバーガーを売っている『ピープルビジネス』だ」――。マクドナルドの創業者レイ・クロック氏の言葉が表すように、マクドナルドの強さの源泉は人にある。

 「当社はとことん『人』に注力している会社。人の力をどう生かすかを考え、社員やクルー(アルバイト)に活躍してもらう。それが顧客へのサービス向上につながり、結果的に売り上げ拡大につながる」。日本マクドナルド人事本部NRSO HR部の井村匡宏部長はこう話す。

 人材育成のための「ハンバーガー大学」など、ユニークな施策で従業員の教育に力を注いできた日本マクドナルド。一方で、それを支えるシステムについては徐々にレガシー化する課題を抱えていたという。

 「社内制度の変更対応などでシステムを開発したり、改修したりしていたためどうしても複雑化していた。見たいデータをすぐ見られなかったり、最新のデータでなかったりした。これからも人を生かしていく上でシステム面が足かせになってはならない。きちんと人事システムに投資をすべきだという会社の判断があった」(井村部長)

 同社は現在、約20年ぶりとなる人事システムの刷新に取り組んでいる。詳細な投資額やシステムの仕様は非公表だが、オンプレミスの「Oracle E-Business Suite(EBS)」をクラウドの「Oracle Cloud HCM」に刷新する。2019年に刷新プロジェクトを始動し、2020年に開発を開始。2021年4月に社員向けの人事システムの刷新を完了した。2023年にはクルー向けなど、フランチャイズを含めた人事システムの刷新も完了する計画という。

社員がスムーズに使えるようガイド機能を実装

 注目すべきは、システム刷新に際し同社がこだわった「デジタルアダプション(デジタル定着)」だ。デジタルアダプションとは、ユーザーが最初から適切にソフトウエアを使いこなせる状態を整えることを指す。

 一般に、新システムをローンチしたばかりの時期はユーザーが操作方法を分からず、入力ミスをしたり、担当部門に問い合わせが殺到したりといった状況に陥りやすい。この問題を解消するのがデジタルアダプションだ。ソフトウエアを使いユーザーがスムーズに利用を始められるようにするソリューションも登場しており、近年注目を集めている。調査会社の米Gartner(ガートナー)は「2025年までに70%の組織がデジタルアダプションソリューションを使用する」と予測している。

 「従業員はITに詳しい人だけではない。新システムが稼働した際に入力ミスが相次いだり、問い合わせが殺到したりしては我々(人事部に相当する『HR部』)がパンクする。ローンチしたところの波をいかに抑えるかが鍵だった」と井村部長。そこで同社は米WalkMe(ウォークミー)のデジタルアダプションのプラットフォームサービス「WalkMe」を導入。新しい人事システムの上で、ユーザーの操作を手伝う「ガイド機能」を実装した。

日本マクドナルドの人事システムの例。ガイド機能がトップページに表示され、利用者の操作を手伝う
日本マクドナルドの人事システムの例。ガイド機能がトップページに表示され、利用者の操作を手伝う
(出所:日本マクドナルド)
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 利用イメージはこうだ。人事システムにログインすると、トップページ上にWalkMeが立ち上がる。ユーザーは「業績目標を作成・申請する」「マネージャーを変更する」などの操作を一覧から選択。するとその操作のためのページまで自動で遷移する。遷移後も一部の操作を代行したり、入力すべきデータを吹き出しでガイドしたりする。

 「新システムをローンチして最初の3カ月ほどが(問い合わせや入力ミスの修正依頼対応で)大変と考えていたが、想定よりも早く落ち着いた。社員向け人事システムが稼働してから約半年がたったが、定期的な社員の評価入力のシステム操作も含め大きな混乱は生じなかった」(井村部長)という。

 日本マクドナルドは今後、人事システムの刷新により一元管理できるようになった従業員のデータを蓄積していき、そのデータを基にピープルアナリティクスなどに注力する方針という。「データを使い最適な人材配置や教育を実施して、より一層従業員が活躍できるようにしたい」と井村部長は力を込める。

 近年はSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の浸透により、企業は魅力的なサービスを早期に利用できるようになった。一方で、ユーザーがシステムをきちんと使いこなさなければ宝の持ち腐れになる。加えてテレワークの浸透で従業員同士が気軽にシステムの操作方法を聞きづらい環境にもある。ユーザーの「デジタル定着」に着目した日本マクドナルドの取り組みは、「ウィズコロナ」「アフターコロナ」における新たなシステム導入の在り方の参考となりそうだ。