アマゾンや楽天市場を通さず、自前路線を貫くECサイトが注目を集めている。オーダースーツを販売するFABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ)。巨大ECモールは使わず、独自開発したECサイトで顧客を集める。中間業者を挟まず、縫製工場から商品を直接仕入れる。2020年4~5月には緊急事態宣言に応じて休業し売り上げを落としたが、7月には前年同月比40%増えた。

 同社はECサイトだけでなく、全国主要都市に14の店舗を持つ。ただ、店舗を販売の場ではなく顧客が採寸する場所と位置付ける。顧客は同社のデータベースに保存された採寸データを基に、ECサイトからいつでも自分の体に合ったスーツやシャツを購入できる。

店舗で採寸をした後、ECサイトから素材などを自由に選んでオーダースーツを注文できる
店舗で採寸をした後、ECサイトから素材などを自由に選んでオーダースーツを注文できる
(出所:ファブリックトウキョウ)
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 「砂漠の真ん中に店を作るようなもの」。FABRIC TOKYOの森雄一郎社長はモールに比べて集客力の乏しい独自ドメインのECサイトをこう表現する。陸の孤島との違いは、検索エンジンやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)といったデジタルツールを使えることだ。有力な購買層である「感度の高いビジネスマン」などを狙い、同社はデジタルマーケティングにも力を入れる。マスメディアではなくSNSなどでターゲティングの仕組みを使う。

 年齢、性別、属性などを絞り、「経済紙を購読していること」などを条件にピンポイントでネット広告を配信する。検索エンジンやSNSの進化により、「大規模なECモールに頼らなくても自前で集客できる」とデジタルマーケティングのメリットを話す。

 データを商品開発に生かすのも特徴だ。店舗での接客を通じて集めた会話の内容や服装などのデータを集めて分析する。例えばビジネスパーソンのバッグの流行が手持ちからリュックに変わりつつあることが分かり、リュックのユーザーがジャケットの肩や背中の擦れに悩んでいることを発見した。そこで同社では「コンバットウール」という強靱(きょうじん)な素材を独自開発してスーツに採用。擦れに強いスーツを発売した。

 狙いは的中。新商品は好評で、新規やリピート顧客の獲得にもつながったという。集めたデータをすぐに商品に反映できるのは、企画から販売まで一貫して行うからこその強みだ。

自由度が高いネット直販、支援サービスが充実

 商品の企画や開発はもちろん、ECサイトのデザインからシステム構築、運用、顧客や商品のデータ管理、顧客サポート、マーケティングまでを自前でまかなう――。FABRIC TOKYOのようにデジタルを活用した直売の形態を「D2C(Direct to Consumer)」と呼ぶ。アマゾンや楽天といった大規模なECモールに頼らないECサイトの形態として、近年注目を集めている。

 大規模ECモールには大勢の利用者がアクセスするのでモール全体で見れば集客が容易な半面、競合となる小売店も多いので小規模なEC事業者は埋もれてしまう。ECサイトのデザインはモール次第なので画一的になりやすい。少量生産ながらブランドイメージを前面に押し出したいEC事業者にとっては、個性を発揮するのが難しい。モール運営事業者に支払う出店手数料も、中小のEC事業者には重荷だ。

 ネット直販であるD2Cの形態を取れば、モールの制約はなくなる。ECサイトを自由にデザインできるため、自社製品のブランドイメージを表現しやすい。他人と重複しない優れたデザインの製品や大量生産ではない一品ものに関心が高いとされる20~30代の若年世代には、特にアプローチしやすいという。

 自由度が高い半面、ECサイトのデザインやシステム構築、サイトの運用には手間がかかる。専任のIT担当者を設けるのが難しい中小事業者にとっては、D2Cの利点があると分かっていても手を出しづらかった。

 そこでD2Cに乗り出す事業者向けのECサイト構築・運用支援サービスが急速に充実している。最大手の1つが加Shopify(ショッピファイ)だ。2019年の売り上げは前年比47%増の15.7億ドル、2020年4~6月は前年同期比97%増の7.1億ドルと、D2Cへの注目の高まりを捉えて急成長している。日本でも2020年4月7日、楽天市場との販売チャネル連携を発表するなど事業を拡大している。

 日本のベンチャー企業、BASEもD2C向けECサイト構築支援を手掛ける1社だ。2020年4~6月の売上高は前年同期比177%増とこちらも急成長している。スマートフォン決済大手の米Square(スクエア)も2020年10月15日、D2C向けのECサイト構築支援サービスを日本で始めた。

 EC構築支援サービスを使うと、EC事業者は独自ドメインのECサイトを手軽に作れる。サーバーやネットワーク、決済システムなどのインフラについてはShopifyらがクラウド上に用意し、EC事業者はネット経由で利用できる。ECサイトのデザインについても様々なテンプレートが用意されており、プログラミングなどの専門知識がなくてもテンプレートを修正したり手元の写真をあしらったりして簡単にECサイトを作れる。

BASE、Shopifyはコロナ禍において急激な成長を見せる
BASE、Shopifyはコロナ禍において急激な成長を見せる
(出所:日経クロステックが作成)
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 BASEに出店する事業者はファッション、ホビー、食料品など知名度は低いがこだわりのある商品を扱うことが多いという。ナショナルブランドの商品を安く売る店がひしめく大規模ECモールでは埋もれがちだ。独自ドメインのECサイトならではのデザインなどカスタマイズ性の高さを生かすことで、ブランドの世界観や商品のこだわりなど、価格以外の魅力を伝えやすいという。

パーソナライズ機能を手軽に実装

 D2Cは広く消費者に訴えるのではなく、見込みの高い個人に対して商品を売っていくという性質上、「パーソナライズ」との親和性が高い。パーソナライズとは、顧客一人ひとりに合わせた商品やサービスを提案するマーケティング手法だ。

 D2Cへの注目の高まりを受けて、パーソナライズを支援するベンチャー企業も登場した。SUPERSTUDIOはECサイト向けパーソナライズ診断サービス「1d color」を提供している。サイトを訪れた顧客が質問に回答していくと、回答に応じたお薦め商品を表示する。質問と回答はEC事業者が自由に設定できる。例えばお気に入りのカフェチェーンや酸味苦みなどの嗜好を回答することで、顧客の好みに合ったコーヒー豆を提案するといった用途を想定しているという。

質問に回答することで自分に合った商品の提案を受けられる
質問に回答することで自分に合った商品の提案を受けられる
(出所:スーパースタジオ)
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 SUPERSTUDIOの真野勉取締役は「以前は専門家が担っていた提案をECサイトで再現できるようになる」と自信を見せる。コロナ禍で対面接客に制限がかかる状況においても、顧客の購買体験向上に寄与できるという。

商売人としての実力が問われる

 構築やマーケティングなど様々な支援サービスが充実し、ハードルが下がりつつあるD2C。ただ、開店すれば売れるほど単純ではない。ECモールは手数料が高めに設定されているものの、モールの知名度を使った集客効果を見込める。独自ドメインのECサイトで集客しようとすれば、費用も手間もかかるのが現実だ。SNSなどを有効に活用し、FABRIC TOKYOのように集客していく必要がある。ECサイトを自由に運営できる分、商売人としての実力が問われると言えそうだ。

 コロナ禍や消費者の嗜好の変化に対応できず苦戦する小売事業者が増える中、ECの進化は早く、デジタルの活用で成長し続けている企業もある。生き残るには従来のやり方にとらわれず、顧客のニーズに合わせて小売事業者も変化していく必要がある。